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vol4.CB-Fのフレームは弱いのか? ~3.続・トレールの持つ意味

column_vol.04 CB-Fのフレームは弱いのか? ~3.続・トレールの持つ意味



注:ステムの切れ込みと同時に、タイヤ接地点は前に移動する。バンクと合わせて曲がる力は増加する。
同時にタイヤには起こそうとする力も大きくなる。
コーナリングスピードと起こすバランスをとるのはライダーだが、操縦技術よりも前に、トレールの働きを失っては、直線はもとより、コーナリングにも影響は大きい。
コーナリング中も車体を安定させなくてはダメ!
フラフラするか、きっちり回るか、その決め手はフォークオフセット、トレール設定にある。


トレールの設定がずれると、タイヤが一定方向に安定しようとする力が不足する。
バンクするとタイヤの起こそうとする力が働き、
起こす→寝る→起こす→寝る→が連続し、それを車体が振られてしまう様に感じる。

世間ではこの現象が鉄フレームは弱いからハイグリップに負けてフレームがよじれるという論説を立ててしまった。


注:フォーク延長がインチダウンの対策と言われていたが、フォークオフセットによる変更より延長の方がトレールへの数値の影響が小さい。
同じ数値を出すためにはかなり長い延長が必要になる事がわかる。
図では半径で1インチ下がった車体に70mmという延長を加えているが、フォークオフセットを5mm小さくしたものよりトレール量は小さい。

今でも反省するのは、レースシリーズ前半、「インチダウンしてもフォークを延長して元の高さにすれば大丈夫」という説を試したこと。
たとえ違うと思っても実際に試さず、経験もしないのに、受け売りで納得するのは私のポリシーに反する!!
これでは、「実際にした事も無いのにえらっそに言うな!」という事を自分がしようとしていた訳だ。
フォークを延長して、高さを稼いで走った。その結果はずばり、ダメだった。
まず、直線で振られる。バイクは寝ない。寝ても曲がらない。特に緩やかなコーナーを加速しながら走るのは、車体が左右に振れて怖い思いをした。

注:コーナー最中、上体を思いっきり内へ入れてもバイクは曲がろうとしない。
アクセルを開け、加速しようとするとフロントタイヤは外へ外へ・・・


苦労した(当時転倒率75%)トレールの設定が、その後17インチ専用のオフセットを減らしたステムに切り替え、もう、こけるのは怖くなくなった。
直線では振られない、コーナーでもフロントのグリップ感を取り戻し、フロントは適度に切れて、内側へ向く力が増し(これは蛇角の関連)まっすぐ走り、かつ曲がるマシンに変わった。そして、それなりの成績を残すに至った。
原因はもうお分かりだと思うが、トレール量の不足だった。これで、どちらが正しいか証明できたのだ。


加えて、スイングアームピボットの位置も可変タイプにし、リアのトラクションの増減、リアサスのセットについてのテストや、キャスターの根本的変更を行うべくヘッドパイプを切ってさらにキャスターを立てる加工によりハンドリングの変化も行うなど、多くのテストも行えた貴重なシーズンだった。
それまで、完成された車体に乗っていた為、車体作りで行った数々のトライがとにかく勉強になった。
トラクションなど聞いたことのある言葉を使っていると思うが、実際に行ってわかるのと、言葉だけでわかるのには大きな違いがある。
最前線の緊張の中で得た経験は、何にも勝るものだった。
他にもどうだろう?
ホイールインチ数が小さいバイクやキャスターが立っているバイクは運動性が高いが、直線でふられやすい。その逆で、キャスターが寝て、インチ数が大きいバイクは安定しているとも言われている。
だとすると、キャスター角22度近いロードレーサーなどは、常にハンドルが振られているはず・・・
300kmは、とてもじゃないが出せない。
キャスターとオフセットから生まれるトレールの関係が、早く安定した走りが出来る設定の要なのだ。
だが、これも一筋縄にはいかない。最近のスーパースポーツはフォークオフセット28mm、25mmまで数値が小さくなってきた。これが、我々CB乗りに直接通用する数値か?というと、そんなに簡単なものではない。
BIG1レース当時は合計6種類のフォークオフセットを試し、最も適した数値を選んだという経緯もあるし、インチ数だけで、オフセットの数値は決まらない。フロントは近年120サイズに落ち着いてきたが、使用するリアのタイヤ幅、扁平率、タイヤのキャラクターでフロントの適正なオフセットは変わってくる。


しかも、ツインショックの場合(特にスイングアームが短い旧車)車体のピッチングモーションが大きい為、加速、減速、コーナーそれぞれキャスターの変化が大きいので、トレール数値は大きく変化する。
基本的に、フレームキャスター角が違うので、スーパースポーツとは選ぶ数値が変わってくる。
小さくすれば良いという訳ではない。車体の持つキャスターに合った、使い方に合った数値を選ばなくてはならない。
逆にトレール量を大きくし過ぎると=フォークオフセットを小さくし過ぎると=今度は安定し過ぎる。
走行中、ハンドルが動こうとしない。追い越し車線にレーン変更しようとするだけで大変だ。
ハンドルが路面に張り付いたように真っすぐ進もうとする。ハンドリングはスポーツバイクの定義から離れていってしまう。

インチダウンする時は、フロントフォークのオフセットを変更し、直進安定性とコーナリング性能を得る。
鉄フレームであることが、車体が不安定であるということの原因ではないという結論に達した。
その年のBIG1は後輪出力で170PS弱。鈴鹿のバックストレートでスピードガンで計ってもらった最高速で272km。
仕上がった足回りでは、フル加速でも、直線でも、なんら不安は無く走ることが出来た。
もちろん、まだ未知の部分はある。
最高出力が200PSオーバー、最高速度が300kmを超えると、また別の症状が現れるかもしれないが、その必要があるかと問われれば、「今は無い。」

鉄フレームは弱い、補強を入れないとハイグリップタイヤに負ける。旧車のセオリーと言われたこの言葉を今度はどう捉えるか?
足回り交換は難しく、やがて純正パーツに戻ったというのもよく聞く。
「純正を超えることはできない」というコメントを目にすることもあるが、方法をきちんとすれば、もっと楽しめる車体にすることが出来るのだ。

上記文章は、CBの改造、走行を中心にした活動の中から得た経験と知識を元に、「フレーム剛性と車体の振れが必ず直結してはいないこと」を論ずるもので、どの車種にも適応する物ではありません。
また、トレールを中心に展開している為、タイヤの形状、キャスター角とのつながり、ハンドルが切れてバンクした際にフロントタイヤの接地点の移動などの関連は記載していません。
車体振れは、ステム・サスホイールインチ数などディメンジョンの設定以外にもたくさん要因はあります。
基本メンテナンスをしっかり行いましょう!!


注)・本コーナーに記載されていることは、決して第三者への忠告や誹謗中傷には該当しないことを明記します。
   ・ドキュメント形式の文面では、当事者の了解を得ています。
   ・本文は、基本整備が十分に出来ている車体を対象としたコメントです。

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