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vol7.メーカーは最高で最低の商品を提供している

column_vol.07 メーカーは最高で最低の商品を提供している


オートバイメーカーは、非常に手頃な価格のバイクを我々に提供下さっていると考えた事はないだろうか。
言いかえれば購入可能な価格ということ。
確かに高性能バイクともなれば車体価格で100万を超えて(軽四を買える、あるいは超えるほどの値段というのはCB750フォアの頃から変わらないようだが)決して安いとは言い難いが、同じカテゴリーのバイクを見ると直列4気筒のスパースポーツでMVアグスタなど600万を超えるバイクもある。
確かに高級志向の所有満足を満たす為であり製造コンセプトが違うといえばうなずけるし、輸入車という贅沢な位置づけであればその値段は妥当かもしれない。安いと高級車ではないのは当然だし、国産の量産車と「高級車」との格付けといえるかもしれない。
しかしそういった高級バイク以上の性能を持ったバイクを我々の購入可能な価格で提供する国産メーカーには相当の努力がある。「量産車だから安い」では片づけられない。他メーカーとの激しい競争の真っただ中にいるメーカーは「合理化によるコストダウン」という言葉を無しに考えられないのである。

開発者の方とお話する機会があったが、全ての部品にコストダウンが徹底されていて、外装に使うボルトが1本10円高いのは会社には認めてもらえず、責任者として少しでもルックスの良いバイクをデビューさせたいという気持ちと、コストダウンとのジレンマに頭を抱えたという。
現実めいた話だが、お客の満足と、販売側の利益を両立させないといけない。
たった10円・・・と思うかもしれないが、メーカーにとっては生産予定台数数万台の車体には至るところにコストダウンを要求されている。ではもし1万台生産予定で、各パーツのコストを落とせたら、全体でいくら下げることができるかを考えてみる。
例えばボルト1本で10円のコストダウン、数本使われているので何十円、これだけでも相当な金額だ。他にもカウル、ハンドル、エンジン、ステップも同様、その他も積もりに積もって1台で1,000円節約したら、全体で1千万円となる。10台分実行すると一億円。

また、年式が新しくなるほど、購入後もトラブルが少なくなっている。
昔のバイクは、例えばポイント点火で調整はしょっちゅうであり、現行バイクに比べ故障もはるかに多かった。それも今やデジタル化による、無接点、調整不要に変わっている。
CB750フォアデビューの頃は、「技量のあるライダーにしか乗れない」(ちょっと言葉が違うかもしれない)とカタログにあったように、バイクに乗るのはテクニックあって当然で、ない奴は乗るな!という時代だったと思う。
今は「トラブルはなくって当たり前」という解釈に枝葉を広げて、合わせて奇しくもPL法の誤解で、クレームの嵐だから、メーカーは敏感になっている。カムシャフトとロッカーアームの作動音で返品の申し出もあると聞くが、それは行き過ぎと思う。あくまで乗り手の技量で走る乗り物で、そのうち転倒もメーカーの責任追及が始まるのではないだろうか。
「ギア抜けする」という問い合わせに昔なら、「丁寧に操作してください。」だったが、今なら「メーカーの作りが悪い」となる傾向だ。シフトミスの少なくなるようなリンケージの変更や、各部の材料の変更などでより壊れにくくしたり、滑らないスタータークラッチ、ひび割れ当たり前だったアルミフレームも、長持ちするし、漏れにくく寿命の長いサスペンション、空冷から水冷化、キャブからインジェクションへの推移などメーカーがクレームを極限まで減らそうとするこれも努力の賜で、購買者である我々には快適に長く乗れる計り知れない恩恵がある。ここは、消費者である我々との競争かもしれない。
もちろん、消費者側からの申し出やお叱りは、製品の性能向上に役立つことは間違いないし、歓迎すべき事だが、乗り手の技術なしでは走らない乗り物なのだ。メーカーにも言いたいことは山のようにあることを一度考えてみていただきたい。

CB750FCのキャブレター 隠れて見えない内側の2気筒用のトップキャップは無塗装。これもコストダウンの一貫、探せばたくさん見つかる。CB1300(SC40)、XJR1200なども同様のキャブ表面処理を行っている。ほんの一例で、探せばいくらでも見つかる。

観点を変えてみる。車体の軽量化も考えて欲しい。CB-Fは80年代前半のスポーツバイクで、メーカー公表の乾燥重量で220キロ台。今のスポーツバイクは180キロ台。
部品ひとつを取っても、軽さがもたらす性能向上は大きな影響がある。安全走行の中核ともいえるホイールは現代では時速300kmでも問題なく走る性能が必要だが、その軽量化は今や純正アルミホイールでさえ、古い時代のマグネシウムホイールより軽く出来ているのがあることをご存じだろうか。
純正ホイールはキャストホイールの純正装着が認可された頃は片方だけで10数キロの重さ。それが今や数キログラムに軽量化されているのは技術の進歩としか言いようがない。
エンジンもびっくりするほど軽くなった。大きさ的にもスーパースポーツの1000ccのシリンダヘッドを見てもらうと80年代の400ccのヘッドよりはるかに小さくなっている。
「前年モデルに比べ更に軽量化」いう新車発表時のコメントは毎年のことで、これは技術の進歩の賜物だ。材料強度の向上、技術の蓄積、強度解析の進歩など軽量化には高度なメーカーの技術が凝縮されているといえるだろう。
軽量化と「合理化」の接点は?というと、たとえば1台当たり500gのアルミを軽量化出来たら(つまり材料を節約すること)全体でどれほど材料費が落とせるか。1万台作れば材料の節約は5トンにも及ぶ。
メーカーの節約が、乗り手にメリットをもたらしている。
エンジン、フレーム、ホイール、サスペンション、マフラー、スイングアーム、タンクなどなど金属材料で軽量化を行うことが性能アップに直結し、結果として、高性能という素晴らしい結果を与えてくれる。
このように、メーカーの努力が我々に操る楽しみを与えてくれている。


何気なく使っているイニシャルアジャスター付きのフォークトップ。
シルバーの部分は、鋳造でおおよその形を作り、旋盤加工でネジ・六角ナットを削っている。
アルミの丸棒から削りだすのと比較すると、工程・時間がはるかに短縮できる。

他にも、コストダウンの努力を探すといたるところにその跡が見られる。部品の共用化もそうだし、製造コスト、広告宣伝、人件費、管理費削減を行った上で、購入者である我々の満足と、メーカーの利益が成り立たなければ、継続して次なる良いバイクは提供してもらえない。
しかし、こう書くと材料費を落として、クレームを無くして販売するメーカーは、単に利益本位に感じるが、そんなことは毛頭ないと思う。企業であるからには「競争市場の中で、より多く売る」という使命があるのは確かな事で、どんな企業にも共通する大切なことだ。
しかし、ノルマや、上司の命令だけで出来ないと思う。なにかこう、思い入れというか、限りない情熱というか、熱意や「好き」という心の力が無いと、その使命とは別に、あんな魅力のあるバイクのデザインや性能は出せないと思う。


合理化の一環に、共通部品という重要な手段がある。
軽量化も含めて、バイクメーカーではスズキの得意とするところかもしれない。



スズキGSX-Rシリーズ 750cc、1100cc、600ccなど見た目は同じだが内部部品で排気量に対応している。画像で見分けが付くだろうか。共通部品に徹した一例である。同一エンジンで、外見を変えたモデルは多くのメーカーに存在する。部品共通による合理化である。

その努力を、決して「せこい」「けちってる」「利益主義」と批判してはならない。購入可能なバイクを作ってくださるメーカーへ、まずは何より感謝の気持ちが必要だと思う。近年バイク人口の減少、景気の動向なども影響しバイクのラインナップ、製造数は減り、ぜいたく品の位置づけになったものの、まだ購入可能な価格である。
世界最高水準のバイクを、世界最低ラインの価格で提供下さるメーカーに心から感謝したいと思う。


注)・本コーナーに記載されていることは、決して第三者への忠告や誹謗中傷には該当しないことを明記します。
   ・ドキュメント形式の文面では、当事者の了解を得ています。
   ・本文は、基本整備が十分に出来ている車体を対象としたコメントです。

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